もう随分前のことだが、ぼくはプロ野球で言う「FA選手」のように、とあるセクションに引き抜かれ、自信満々にその部署に異動した。「自分がこのセクションを立て直すんだ」と思っていた。しかし、それまでいたセクションとそのセクションは、同じ会社とは思えないくらい「文化」が違うことに、ぼくは気がついていなかった。ぼくが立てた企画は、失敗を重ねる。ぼくを引き抜いた上司は窮地に立つ。最終的にその人は別のプロジェクトの金銭的失敗が原因で異動してしまうのだが、ぼくは責任を感じずにはいられなかった。
正直、ナメていた。そこを踏み台に、早く次に行こうと思っていた。でも、ぼくは1年近くたっても、そのプロジェクトでヒットを出せずにいた。「半年後にはもう一歩階段を上ってもらう」という、引き抜かれたときの約束は反故にされたが、当然だと思っていた。ぼくは結果を出せていないし、ぼくを引き抜いた人ももういなくなっていたから。会社の帰りに、毎日のように深夜のデニーズでひとりで企画を考えていた。自分が考えた企画を、それまでヒットした企画をメモしたものと照らし合わせ、なにが足りないのか、どこが問題なのか、自問自答を続けた。
ある時、頭の片側が痛むので会社の診療室に行った。医師は、笑みを浮かべて「ストレスからくる偏頭痛ですね」と言った。「あなた、いまの仕事を好きじゃないでしょう」医師の笑みはとても底意地の悪いものに思え、ぼくは「いえ、そんなことはないです」と笑みを返した。実際にはぼくはそのセクションでの仕事が好きではなかったが、認めたくはなかった。自分が変えてやる!と乗り込んだセクションで結果を出せないで、浮いてしまっている上にストレスで精神まで病み始めているなんて認めたくなかった。
そうか、狂ってしまおう、と思った。狂ってしまえば、まわりからどう思われようが自分の世界しか見えない人間になれれば、きっともっと違ったものが出来るだろう、と思った。それからしばらくは、すごくうまくいった。打つ手打つ手が当たっていった。斬新な切り口だ!と絶賛され、今でも他社に使われている方法論も編み出した。会社から表彰され、スタッフ全員を海外旅行に連れて行ったりもした。でも空っぽだった。それは、誰かに向けて発したものではなかったからだと思う。でも、そのやり方で成功してしまった以上、引き返せなかった。狂気の中にい続けるために、いろんな女性と関係を持った。浴びるように飲んだ。
でも、「極端なもの」はいずれ飽きられる。ぼくの手法も飽きられ始めた。ぼくは、新しいプロジェクトに移ることになった。引き抜かれたかたちだが、実際には「お払い箱」だった。でもぼくは狂気の中から抜け出せなかった。これで成功してきた以上、このやり方で通すしかないと思った。しかし、空回りが続き、仕事にもすべてにもやる気を失い、生活はさらに荒れた。このまま死んでもいい、と思うようになった。やがて「彼女」と出会った。
銀杏BOYZを聴いていたら、狂気の中にいた頃の自分を思い出した。と同時に、もうあそこには二度と戻らないだろうと確信した。峯田さんがいまどんな状況にあるのかぼくは知らない。でも、「光」という曲は、かつて確かに狂気の中にいて、そこを抜け出すことが出来た人にしか書けない曲だと思った。何の確信もないけれど。そしてそれは決して他人に誇れるようなことではないのだけれど。ただ、よかったね、と思う。峯田さん、狂わずに、死なずに、ここにいられてよかったね。歌い続けられて、本当によかったね、と。
僕たちは世界を変えることができない *初回盤
DVD UK.PROJECT 2007/04/11 ¥3,990
正直、ナメていた。そこを踏み台に、早く次に行こうと思っていた。でも、ぼくは1年近くたっても、そのプロジェクトでヒットを出せずにいた。「半年後にはもう一歩階段を上ってもらう」という、引き抜かれたときの約束は反故にされたが、当然だと思っていた。ぼくは結果を出せていないし、ぼくを引き抜いた人ももういなくなっていたから。会社の帰りに、毎日のように深夜のデニーズでひとりで企画を考えていた。自分が考えた企画を、それまでヒットした企画をメモしたものと照らし合わせ、なにが足りないのか、どこが問題なのか、自問自答を続けた。
ある時、頭の片側が痛むので会社の診療室に行った。医師は、笑みを浮かべて「ストレスからくる偏頭痛ですね」と言った。「あなた、いまの仕事を好きじゃないでしょう」医師の笑みはとても底意地の悪いものに思え、ぼくは「いえ、そんなことはないです」と笑みを返した。実際にはぼくはそのセクションでの仕事が好きではなかったが、認めたくはなかった。自分が変えてやる!と乗り込んだセクションで結果を出せないで、浮いてしまっている上にストレスで精神まで病み始めているなんて認めたくなかった。
そうか、狂ってしまおう、と思った。狂ってしまえば、まわりからどう思われようが自分の世界しか見えない人間になれれば、きっともっと違ったものが出来るだろう、と思った。それからしばらくは、すごくうまくいった。打つ手打つ手が当たっていった。斬新な切り口だ!と絶賛され、今でも他社に使われている方法論も編み出した。会社から表彰され、スタッフ全員を海外旅行に連れて行ったりもした。でも空っぽだった。それは、誰かに向けて発したものではなかったからだと思う。でも、そのやり方で成功してしまった以上、引き返せなかった。狂気の中にい続けるために、いろんな女性と関係を持った。浴びるように飲んだ。
でも、「極端なもの」はいずれ飽きられる。ぼくの手法も飽きられ始めた。ぼくは、新しいプロジェクトに移ることになった。引き抜かれたかたちだが、実際には「お払い箱」だった。でもぼくは狂気の中から抜け出せなかった。これで成功してきた以上、このやり方で通すしかないと思った。しかし、空回りが続き、仕事にもすべてにもやる気を失い、生活はさらに荒れた。このまま死んでもいい、と思うようになった。やがて「彼女」と出会った。
銀杏BOYZを聴いていたら、狂気の中にいた頃の自分を思い出した。と同時に、もうあそこには二度と戻らないだろうと確信した。峯田さんがいまどんな状況にあるのかぼくは知らない。でも、「光」という曲は、かつて確かに狂気の中にいて、そこを抜け出すことが出来た人にしか書けない曲だと思った。何の確信もないけれど。そしてそれは決して他人に誇れるようなことではないのだけれど。ただ、よかったね、と思う。峯田さん、狂わずに、死なずに、ここにいられてよかったね。歌い続けられて、本当によかったね、と。
僕たちは世界を変えることができない *初回盤
DVD UK.PROJECT 2007/04/11 ¥3,990
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